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アースキーパー・ネットワーク

アースキーパーのつぶやき


by kisan35

夏子の酒

20年ぶりくらいで、マンガを一気読みしてしまった。しかも12巻もあるヘビー級。

「夏子の酒」は、何年も前に、テレビドラマにもなって放映されたらしいので、ご存知の方も多いかもしれない。山形新庄の気骨のあるお百姓Sさんが、「ぜひ、読みなさい。いいよー。」といって、はるばるダンボールに入れて送ってくれたのだ。このプログでもおなじみの水田トラストのお百姓さんたちのあいだで、評判のマンガなのだそう。最初、「ふーん、造り酒屋のお嬢さんが、いい酒をつくるために奔走する努力と根性の物語なのねー。なんで、これが、お百姓さん超おすすめなんだろう?」と、思いつつも読み始めると、とまらない。・・・すごいのだ。

いい酒をつくるために、今はもう作られていない、まぼろしのお米を手に入れた兄の遺志をついで、完全無農薬の米づくりからはじめる夏子。ひとにぎりのモミが、やがて青々とした田んぼ一面に広がり、ようやく酒づくりができる・・・と、あらすじを書くのがヘタクソな私が書くと、つまらない物語になってしまうので、ここでやめておくけれど、とにかく日本の農業、酒作りの現状の勉強になる!

都市生活しか知らない私のような消費者は、「なんで農薬なんか使うんだろう?」と単純に考えてしまうけれど、はたらき手がいなくなって、「かあちゃん、じいちゃん、ばあちゃん」の「サンちゃん農業」をしなければならなくなった農家が、自分たちの健康を害してまで、効率よく草とりをするために除草剤などの農薬をとりるようになった事情、高額な耕作機械を買わなければやっていけない事情や、それにつけこんでいる農薬会社、耕作機械会社、それにまつわるウラの人間関係などが、とても克明に描かれている。

※米の年間生産高・・・3兆8千億円、農業機械代・・・8千億、農薬代・・・1千8百億、肥料その他・・・1兆円以上。

※「夏子の酒」から抜粋。1980年代後半から90年代にコミックモーニングに連載されていたマンガなので、今は数値が変わっていると思います。現在は、これらに、さらに、遺伝子組み替え技術、というものが加わっているので、お百姓さんたちは、あいかわらず、食い物にされているようです。除草剤をかけても枯れない遺伝子組み替え作物なら、草取りで苦労する必要がありませんよ、と、いわれて導入したはずが、除草剤をかけても枯れない雑草などが生えてきて、なおさら苦労しているそうです。除草剤に免疫のついてしまった雑草は、さらに猛毒の農薬をつかうしか手がありません。

今よりもっと、有機農業に対する理解が、世の中になかったころなので、手間のかかる無農薬栽培をすすめる夏子たちに対する風あたりは、とても強かったけれども、ひとりひとりの心を変えて、村そのものを変えてしまう夏子の生き方は、なんだか、新庄水田トラストのお百姓グループと、オーバーラップしてしまう。・・・新庄のお百姓Sさんが、このマンガを強烈にすすめる理由がよくわかった。「自分たちのやってきたことと同じなんだね。」

お米づくりのことばかり書いてしまったけれど、お酒づくりについても、とてもくわしく知ることができる。もともと、酒づくりに命をかける人たちの物語なのだから。戦後、物資がなにもないころにはじまった、アルコールや添加物をたっぷり混ぜてつくるお酒のことや、銘酒について、それをつくる人々の情熱と心意気に、さわやかに感動できる。

新庄のSさんだけでなく、私も、今年イチオシのマンガ!(・・・発行されたのは、10年以上前なので、古いよっていわれそうだけれど)。お酒が好きでウンチクをかたむけるのが好きな人、日本の食料や農業についてマジメに知りたい人、職人カタギな人、生命のふしぎに感動できる人、人と人のつながりを大事にしたい人・・・そんな方たちに特におすすめ。

ところで、作者の尾瀬あきらさん、新庄の「さわのはな」も取材してくれないかしら。

(by Hakuru)

「夏子の酒」(尾瀬あきら作・講談社発行)
by kisan35 | 2004-12-08 14:50 | エコロジー食