ガイア説のラヴロックに異議あり!

屋久島の星川さんからのインナーネットソースを転載いたします。

 9月上旬の南ア出張から帰ると、参加している反/脱原発のメーリングリスト
で、11日付の毎日新聞にイギリスの科学者ジェームズ・ラヴロックからの手紙
を大きく取り上げた、日本原子力文化振興財団の広告が掲載されたことを知りま
した。広告は同財団の下記アドレスでPDFを見ることができます。
http://www.jaero.or.jp/data/energy/2004/topics/pdf/lovelock.pdf

 ぼくは「来たな!」と思いました。地球が巨大な生命体のように環境を自己制
御しているのではないかとする「ガイア説」で世界的に著名なラヴロックは、今
年5月に「温暖化が待ったなしの窮地を迎えつつあるいま、環境派もつべこべ言
わずに二酸化炭素を出さない原発を容認せよ」というアピールを発表して、英語
圏で話題を呼んでいたのです。温暖化を理由にした原発推進論は、ほかに根拠の
なくなった政府や電力業界が90年代から付け焼刃的に主張しはじめており、と
りたてて新しいものではないし、ウラン採掘から稼動や廃棄物処理まで化石燃料
がなければ動かない原子力発電システムが二酸化炭素削減になるかどうか自体、
大いに議論の余地があるところです。

 ただ、日本でも映画『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』に登場するなど、
エコロジー派の理論的支柱の一人ともみなされるラヴロックが、原発推進を公言
しはじめたことは新しい展開で、グリーンピースや地球の友を含め、多くの国際
環境団体が素早く反論しました。そんななか、日本の原子力推進勢力も、いつか
ラヴロックのこの“変節”を利用するだろうと予想はついたのです。

 しかし、ラヴロック自身は80年代のデビュー作『地球生命圏』、続編『ガイ
アの時代』(ともに工作舎)、90年代の『GAIA 生命惑星・地球』(NT
T出版)と、一貫して原発容認の姿勢を明らかにしてきましたから、今回それが
“容認”から“積極推進”に変わったにすぎません。理由は日本原子力文化振興
財団の広告で述べているとおり、地球温暖化を止めるには世界のエネルギー源を
すべて原発にシフトするしかない、というものです。

 ぼくは初期2作の翻訳者として、当初から原発容認には異論を明記し、ラヴロッ
ク自身にもそう伝えてきました。それが積極推進に変わり、日本の大手紙にも広
告掲載されたとなれば、ひとこと釘を刺さないわけにいきません。そこで毎日新
聞向けに反論寄稿を用意し、同紙に掲載可能か打診しましたが、掲載されない見
通しが強まったため、補足資料を添えて自前で公表することにしました。「ガイ
ア説のラヴロックに異議あり!」と題した下記が、ほぼ用意したとおりの反論文
です。

 寄稿コラムを想定して字数を絞らなければならなかったので、補足したい点を
注として付記します。また同じ日本原子力文化振興財団が、自衛隊のイラク派遣
を目前にした今年2月、アメリカによる劣化ウラン弾の使用を容認するかのよう
な報道発表をした問題について、劣化ウラン兵器を告発し続けている「イラク劣
化ウラン情報」からの下記関連資料にもぜひ目を通してください。
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/DU/genbunshin.htm
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/DU/no_du_report21.htm
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/160/syuh/s160011.htm

 税金と電気料金(独占形態ですから半ば税金)を財源とする政府系財団が、国
策遂行の宣伝機関となるのは、当然のようで当然ではありません。原子力政策ほ
ど影響が大きく、しかも賛否両論が分かれる問題については、公金で推進論を宣
伝するなら、同じく公金で同じスペースを確保し、反対論を取り上げるのが真の
公共性でしょう。ヨーロッパではそういう例があると聞きます。同じ広告スペー
スを一般市民が購入しようとしたら、税金および電力料金と二重取りされること
になって公平ではないと思いませんか。
【注:以上は広告媒体となった毎日新聞を批判するものではありません。原子力
推進を含む政府広報は、他の大手紙も掲載しています。】

 おまけに、原子力を平和利用に限った原子力基本法と非核三原則とを厳守すべ
き日本原子力文化振興財団が、なぜアメリカの劣化ウラン弾使用を容認するのか
――自衛隊派遣の露払いを狙った愚行です。うっかり見逃してしまいそうな、こ
うした姑息な手段を繰り出しながら、政府が国を誤った方向に誘導しようとする
ときは、黙っていることが同意になり支持になります。


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            ガイア説のラヴロックに異議あり!
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  ▼▼▼▼▼▼▼ 引用はじめ ▼▼▼▼▼▼▼

 アメリカを襲った同時多発テロ三周年の去る9月11日、毎日新聞に不思議な
広告が載った。地球を一つの生命体と見る「ガイア説」[1]で世界的に有名なイ
ギリスの科学者ジェームズ・ラヴロック博士の手紙を紹介した、日本原子力文化
振興財団の五段抜き広告だ。手紙は、地球温暖化の深刻さを訴え[2]、「人類の
文明がさし迫った危機にさらされている今こそ、唯一の安全確実なエネルギー源
である原子力を利用すべき」と結論づける。1980年代にラヴロック博士の初
期著作を2冊訳出紹介した者として、異論を呈したい。

 まず、9・11事件以来、日本も含め世界各地で原子力発電所がテロ攻撃の標
的として危ぶまれる中、厳粛に犠牲者を悼む日付を選んで、このような広告を掲
載した神経を疑う。温厚な人柄の博士がそれを望んだとは思えないが、意表をつ
く手紙の内容とあいまって、違和感をおぼえた人は少なくないだろう。組織内か
ら、せめて別な日付にしようという配慮の働かない政府系広報機関に、原子力行
政全体に通じる体質が覗く。

 実は、博士の原子力容認姿勢は初期著作以来一貫しており、今回の手紙も5月
にイギリスの新聞に寄稿して話題を呼んだ記事の要約といえるもので、意外では
なかった。しかし、訳者はおうおうにして著者と重ねられるため、私も20年来
「訳者あとがき」などで一貫して、その点は立場が異なることを注記してきた。
ただ最近の博士は、原発容認から「世界の主なエネルギー源として原子力を」と
いう積極推進に変わったことが新しい。

 問題は三つに整理できる。第一に、ガイア説の本質に触れるのだが、博士は生
命体としての地球を尊重するあまり、その有力メンバーである人間社会を軽視す
る傾向が見える。たしかに地球史的な視野に立てば、原発や核兵器の放射能程度
は生命自体の存亡に関わるものではない。地球誕生以来46億年、生命発祥以来
36億年、全生物の九割が死滅するほどの危機は何度もあった。しかし、博士自
身が温暖化に警鐘を鳴らすとおり、人類が惑星生態系の行方を左右するような力
と人口を持ってしまった今、逆に人間社会のあり方を軽んじすぎることは、ひる
がえって地球の将来を危うくしかねない。

 第二に、その意味で温暖化と核の危険と、どちらが人間社会への脅威かは二者
択一ではない。たとえば、もし世界中に原発が林立するようになった場合[3]、
チェルノブイリ級の事故をはじめ、核物質がテロリストの手に渡ることや、原発
そのものへのテロ攻撃など、とうてい封じ込めきれない深刻なリスクが天文学的
に増大するだろう。わずかな核物質の有無をめぐって大国が戦争をしかける現状
を見るかぎり、核施設だらけの世界は想像だにおぞましいし、おぞましい世界に
生きる人びとは地球環境への配慮もままなるまい。

 第三の問題は、博士が原子力発電推進を主張しながら、原発の建設や稼動にと
もなう実態、とりわけ人間的な負の側面に不案内と思われることだ。ウラン採掘
地に広がる放射能被害、札束で殴られるように地域社会を分断される核施設立地
住民の苦しみ、11人もの死傷者を出した美浜原発三号機事故が露呈する下請け
原発労働者の窮状など、原子力には分裂と涙と命の危険がつきまとう。そのうえ、
最終的に放射性廃棄物を安全に処理できるかどうかさえまだ定かでない。広島・
長崎の被爆体験を抱えつつ、事故や故障の続発に不安を募らせ、政府と電力会社
の不誠実な姿勢に不信感を強める日本人にとって、原発こそ「唯一の安全確実な
エネルギー源」と説くラヴロック博士の言葉は空虚に響く[4]。

 英紙への投稿で博士は、温暖化がもたらす破局に比べ、「化学物質や放射能に
よるガンの危険など些細なもの」と言い切るが、同意し難い。温暖化防止に全力
で取り組むと同時に、核の脅威からも自由な世界を、私たちはかならず実現でき
るはずだからだ。
                        星川 淳(作家・翻訳家)

  ▲▲▲▲▲▲▲ 引用おわり ▲▲▲▲▲▲▲

■注■

[1] 生命発祥以来、地球の気温、大気組成、海洋塩分など主要条件を、生命の存
続と進化に最適になるよう、全生物が協働的にコントロールしているとみなす。
「ガイア」はギリシア神話の地母神にちなんで、この地球大の自己維持制御シス
テムに名づけたもの。

[2] 地球温暖化への危機感は世界中の環境派が共有する。ポイントは、その緩和
策・解決策を原発に限定するか、むしろ原子力利用は問題の一部として削減・廃
止をめざしつつ、他の緩和策・解決策を優先するかだろう。多くの人びとは、次
項をはじめとする理由で原発が温暖化の解決策にはならないと考えている。

[3] 原子力発電は稼動そのものからの二酸化炭素排出は少ないが、それを取り巻
く石油エネルギー基盤がなければ動かない。さらに、摂氏7度高くなる大量の温
排水が微気候におよぼす温暖化効果は、故・高木仁三郎氏も指摘しており、全世
界で膨大な数の原発が動き出した場合、温暖化促進に寄与するだろう。また、
『日経エコロジー』10月号(04年)掲載コラム「原子力発電は鉱石の質次第
で火力発電以上のCO2排出の試算も」でロッキーマウンテン研究所のキャメロ
ン・M・バーンズが紹介しているとおり、全世界が原子力エネルギーに依存した
場合、有効含有量の多いウラン鉱石は3年で採掘し尽くしてしまい、残る低質鉱
石は精錬その他に多大なエネルギーを要するため、化石燃料を直接燃焼するより
多くの二酸化炭素を排出する可能性がある(英語関連文献は下記)。原発は推進
論者が主張するほど温暖化抑制の決め手か疑問なのだ。
http://www.oprit.rug.nl/deenen/

[4] ラヴロックによる原発推進論は、地球生命圏が自己制御を行なう巨大な複雑
系だとするガイア説自体の理論的価値を損なうものではない。

★なお、反論文作成にあたってラヴロック本人に、日本のようなプルトニウム利
用政策や、一般の原発でプルトニウムを燃やすプルサーマルも認めるのか質問し
ましたが、回答をいただけませんでした。


http://blog.melma.com/00067106/20041130165724
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by kisan35 | 2004-12-03 08:47 | 環境・社会問題

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